映画祭への道~字幕翻訳の世界 連載第4回
平成17年10月、大阪国際交流センターで開催された字幕翻訳者として第一線で活躍されている岡田壯平氏の字幕翻訳セミナー。その一部を全5回にわたってご紹介いたします。
- 講師:岡田壯平氏プロフィール
- <第一回>字幕翻訳者への第一歩~あの頃は僕も初心者だった~
- <第二回>活きた翻訳を生み出すには?~岡田先生からのアドバイス~
- <第三回>その疑問にお答えします!~スラングやダジャレはどうやって訳しているの?~
- <第四回>劇場字幕の裏側~劇場字幕はさらに苦労の連続!?~
- <第五回>字幕翻訳を職業にする!~一番聞きたかったあの話~
「劇場字幕の裏側」~劇場字幕はさらに苦労の連続!?~
劇場字幕
字幕といえば文字数に制限がありますね。大雑把に言うと2つ、「切り捨てる」「言い換える」を駆使して短くします。
もう、一人ぼっちにされたくなかったからだ
↓
寂しかったからだ
ビデオグラム(ビデオやDVDなど)の字幕の決まりは1秒4文字ですが、一時期NHKは1秒3文字を強要していたことがあります。3文字なんて「わたし」って書いたら終わりです。これは非常に厳しい。
ただし、字数が少ないから同じ字幕を三度くらい読めるのですごく楽です。映像ももっと楽しめます。でも伝える内容が少なくなってくるんですよね。痛し痒しといったところです。
ところが劇場では1秒4文字じゃないんです。僕の若い頃の印象だと、劇場の字幕は読みきれない内にどんどん次のセリフが出てきて将棋倒し的に、途中で見る意欲が失せた記憶があるんですよね。読みにくいし、読みきれない。
劇場字幕の文字の決め方というのは1フィート3文字です。秒に直すと2秒で9文字。ビデオだと8文字のところを劇場翻訳の場合は9文字入れます。これが5秒だと20文字が22文字、つまり劇場の場合は常に字数がやや多めに入っているんです。ですから読むのが辛いかなという字幕も見受けられますね。さらに画面のバックが白くなると余計読めなくなってしまう。そういった字幕入れの現状を説明しましょう。
劇場字幕にはパチ打ち字幕、レーザー字幕、焼き込み字幕と3種類あります。
昔はパチ打ち字幕が主流でした。今はパチ打ちのできる会社が一社しかありませんので、もうほとんど作られていません。
まず、字幕独特の字を書くライターさんに字幕の原稿を渡して、その独特の字で字幕のカードを一枚一枚作っていきます。
次にそれを写真製版します。バチャッと写真を撮って製版、要するに凸版の判子を作るんです。そうやって小さな字幕の判子がいっぱいできます。
最後にその小さい判子を映画のフィルムの1コマ1コマに機械でパチパチと打ちつけていくんですよ。表面に傷をつけていくんです。
そうするとその傷が映写されたときに影になって、スクリーンの上で字幕になって見えるというのがパチ打ち字幕です。
こんなにアナログなやり方でないのがレーザー字幕です。
これはレーザー光線で焼いていくのですが、パチ打ちみたいにフィルムの表面に傷をつけないでただ焼くだけなんです。ですからバックが白いと非常に見にくい。パチ打ちのように傷がつくとそれが影になって見やすくなるんですが、レーザーだと綺麗に焼くので傷がつきにくい。だからバックが白いと字が溶け込んでしまうんですね。
以上の2つは現在全国拡大ロードショーの映画にはあまり使いません。焼き込み字幕を使います。
焼きこみ字幕では絵のない字幕だけの「映画」を一本作ります。それをネガの状態の、セリフも絵も音楽も入った本当の映画のフィルムに重ねて現像するんです。そうすると映画と字幕が一緒になって出てきます。
レーザー字幕はわずかながら字の輪郭に焼け跡が残るのですが、この焼き込み字幕の場合は綺麗に合わさって現像されます。もしも映像に白い背景があったら・・・これに至ってはどうしようもないですね。焼き込み字幕は安く大量生産できるんですが、こういう致命的な欠点があります。そこに黒い影をつける作業をすればバッチリ見えますが、非常にお金がかかります。バックが白くて字幕の文字が何も見えなかった、というのは焼き込み字幕のケースが大半だと思います。
あとは、あっち行ったりこっち行ったりする「逃げまくり」字幕。あれもやはり白いところから逃げるためですね。
残念ながらパチ打ち字幕は廃れてしまい、独特の字を書くライターさんの仕事もほとんどなくなってしまいました。一部のライターさんはその字をパソコンに登録し、フォント化して残している人もいます。そのフォントをレーザー字幕に活かすことで別の活路を見出している人達もいますが、パチ打ちの仕事はかなり衰退しています。だから今は、レーザーや焼き込み字幕で白いバックから逃げまくりながら字幕を入れているのが現状です。
>>>【第五回】「字幕翻訳を職業にする!」~一番聞きたかったあの話~
- 岡田壯平氏プロフィール:
- 1953年7月東京生まれ。両親とも役者で世田谷区育ち。
- 私立明星学園小・中・高卒業をし、上智大学文学部英文学科、早稲田大学理工学部建築学科を卒業。一級建築士の資格も持つ。作家建築家を目指すも結婚をきっかけに断念し、映像翻訳の仕事へ。東北新社でアルバイトとして働きながら吹き替え翻訳、字幕翻訳を修業し、先輩翻訳者の方々の紹介で映画字幕翻訳の仕事へ。趣味はジャズを聴くこと、バイク、スキー。
- 心に残る字幕翻訳:
- 「レオン」「ショーシャンクの空に」「コーチ・カーター」「トラフィック」「許されざる者」「フォーガットン」「ライディング・ザ・ブレット」「リプレイスメント」「バーティカル・リミット」等々。


